[反復と差異]萩原朔美 x 三宅章介  Repetition and Difference

佐藤守弘キュレーション

2021.9.18 sat- 10.3 sun

LUMEN gallery + galleryMainy


Lumen_DM_2020


類型学(Typology)とは、B&H・ベッヒャーによる一定の「タイプ」の ——すなわち給水塔、サイロなど特定の用途とそれに由来する形態を持つ—— 建造物を多数撮影した作品のコンセプトを指す言葉である。個々では画一的にも見える建造物は、グリッド状に並べられることによってその多様性を顕にするようになる。シリーズのタイトルに「類型学」を掲げる三宅章介はもとより、萩原朔美の写真作品にもそのようなアプローチは見てとれる。
 遡ると19世紀の民族学者たちは、ある民族を観察し測定することでその民族固有の形質を見出そうとした。それこそが「タイプ」と呼ばれたものであり、その際に役立てられたのが写真であった。また美術史において、ある時代のある地域で制作された作品に共通する様式を抽出する際にも、写真による比較は欠かせないものであった。写真はそもそも類型学と深いつながりがあったのである。
 ただし、かつての民族学者も美術史家も切り捨ててきた差異を浮かび上がらせてしまうのがベッヒャー以降の類型学である。それは写真という技術が時間と空間からその痕跡を剥ぎとり、移動させてしまうことに由来する。萩原が追い求める街灯、階段、観覧車やカラーコーン、ドアスコープから見た世界、さらには自らの影も、三宅が蒐集するかつてあった家の痕跡も、写真術によってひき剥がされ、他所に並置されることで、驚くほどの多様性をもって私たちに提示される。
 そのまなざしは客観性を持ったものに見えるかもしれない。しかしそれらをつなぐ見えないハブには、間違いなく二人の芸術家が存在するのである。

同志社大学文学部美学芸術学科教授
佐藤守弘

会場風景

上映会・トークショー

 

反復と差異 #01 _プロジェクションマッピング:8つの部分からなる立方体 

 

反復と差異 #02 _ガラス乾板に「京都タワー」のLIVE映像を投影

 

反復と差異 #03 _アンブロタイプ(写真)にISS(国際宇宙ステーション)からのLIVE映像を投影

 

反復と差異 #04 _切妻屋根の痕跡のための類型学

 

反復と差異 #05 _8つの部分からなる立方体 

 

反復と差異 #06 _newspaper 

 

毎日新聞 滋賀版 2021.10.1朝刊


 萩原朔太郎の孫で前橋文学館長の萩原朔美さんと嵯峨美術大学名誉教授の三宅章介さんの写真展「反復と差異」が3日まで、京都市下京区麩屋町通五条上ルのギャラリー・メインと隣接のルーメン・ギャラリーで開かれている。
 萩原さんはマンションの室内からドアスコープ越しに見た風景や歩道に立つガードホールを真上から撮影したと思われる写真などを出展。 三宅さんは京都市で、駐車場や空き地を囲む建造物の壁に残る、かって隣接していた切り妻屋根の痕跡の写真を展示する。それぞれ似た構図を並べて類型と選別、反復と差異を感じ取らせている。
 2日午後3時と同5時半、萩原さんの映像作品が上映される。
開場は午後1〜7時。入場無料。ギャラリー・メイン(075・344・1893)

北出昭

展覧会の鑑賞記録 萩原朔美、三宅章介|反復と差異 2021.10.3日


会場 |ルーメン・ギャラリー + ギャラリー・メイン
Open: 9/18-10/3 13:00-19:00 Closed: Mon. 9/20, 9/27

 10/2昨日は上映会があり、萩原朔美作品が上映されていた。ボーナストラックのリンゴが腐っていく様子を定点観測した映像作品(タイトル失念しました)が、会場に展示されているタイポロジー(類型学)の写真群との共通性や親和性があり、とても良かった。映像による継続した時間の流れの中の一個のリンゴの形態変化と、断片化された写真による複数の個別の形態の類似。
 萩原朔美、三宅章介両氏によるアフタートークでは、「表現を教えること」についての話をされていた。萩原氏の話、「白とは何か?」を大教室の生徒に順番に指名して答えさせ、二巡させて出し尽くす話、寺山修司の「ソニーテープ千一夜」での盲学校の生徒に聞く色の話と似ているな、と思った。私は寺山のこのエピソードが大好で、最近小説の題材にもしたりして、個人的によく考えていたこともあり、その変化球バージョンのお話が思わぬところで聞けて、とても嬉しかった。 https://www.youtube.com/watch?v=RP3KWsiclys
他、話題は写真家の分類の一つとされる窓派・鏡派や、協働で展覧会をすることについてなどの話題など。
 隣接した二会場での展覧会も、見どころの多い作品ばかりだ。
そのうちの一つ、三宅章介の作品、新聞紙題材にしたシルクスクリーンの作品、製作当初文字が読めないことを目的とした作品の意図が、経年劣化により作品の形状が思わぬ形状変化を伴い、まさか文字が浮き上がって読めるようになった話(しかも白と黒で加工方法が理由が違うのにどっちも読めるようになった!)が、時間とエラーの実験性にユーモアがあって、とても魅力的だった。

野咲タラ note