Photo Works
Typology for Traces of Gable Roofs
切妻屋根の痕跡のための類型学
2020.9.23
182mm x 254mm x 11mm 128ページ
ソフトカバー
何か、子供の頃遊んだ空き地に再会したような、失われた故郷が夢の中で立ち昇ったような感情が抑えられない。三宅章介の写真集「切妻屋根の痕跡のための類型学」のページをめくる事は、家族アルバムを見るよりも心を動かされる。一人っ子の私にも、兄や弟がいたような不思議な気分である。初めてシンクロニシティを信じる気になってしまった。
実は、私も痕跡に惹かれて、写真を撮っている。だから余計我が事のように、シャッターを切る心情に共感するのかもしれない。
もちろん、三宅章介の写真は、時代の残滓を露呈する作品ではない。かつてそこにあったという、写真が抱えるメディアの特性がテーマである。あらゆる写真は遺影である。今ある記念写真、人物写真は、50年も経てば直ぐに時代の雰囲気を伝える資料に変容する。三宅章介が提示する作品が愛おしく思えるのは、街が遺影である事を表現しているからに他ならない。そしてもう一つのテーマ、見えないものを見ようとする描写の中に、視覚偏重への疑問が深沈と流れている。それが、愛おしさを生むのである。痕跡が触発する消失した建造物のリアリティー。見えない、喪失したものを幻視させる描写力。
三宅章介の写真の魅力は、メタメディアの構造にあるのだ。この、見えないものを見せる三宅章介の姿勢こそ、わたしたちが今最も必要としているテーマだという事は言うまでもない。
多摩美術大学名誉教授
前橋文学館館長
萩原朔美